橋上や下本、佐々木と言った花形運転士の陰で、ひそかに小さな花を咲かせている運転士グループがいる。花形運転士がヒマワリなら、俺はしがない月見草と野村監督が言っていたが、こちらの月見草はナチュラル、自然体である。
何が好きかと言うと、掃除である。トイレの掃除も一生けん命だ。レールの重要な機械の一つにポイントがある。「ポイント掃除」だ。地味だが列車にとってはとても重要だ。主に新人が先輩に怒られながら行う作業だが、飯田は「今でも好きな仕事」と言い切る。掃除をし、給油してポイント転換がスムーズになった瞬間の達成感が好きだ。細かなところをしっかりと点検し、安全に走行する手順がある。飯田は手順通り、何千回と繰り返しても変わることなくしっかりと点検する。列車の調子も瞬時に見抜く。運転しながら「今日は機嫌がいい」「今日は気温が高すぎてばて気味かな」とか、一心同体のパートナーを気遣う。
小学校5年の時に、久慈に国鉄久慈線が開通した。朝早く起きて一番列車に乗った。別に鉄ちゃんじゃないけど、いまその鉄道に毎日乗っているとは不思議な感じだ。地域を支え、地域の人たちの大事な足としての任務は震災前と今でも全く変わらない。いくら三鉄ブームになったからと言って、そうした姿勢が変わることはない。普段通りなのだ。地域にあってこその三鉄は決してスターでもなく芸能人でもない。ごく普通のローカル線だと飯田は思いを強くする。こうした紙面やネット、マスコミに載ることを敬遠する。目立つところには立ちたくないのだ。まさに月見草飯田。